2013年4月14日日曜日

室瀬和美(人間国宝)      ・漆ジャパンを暮らしの中に

室瀬和美                          ・漆ジャパンを暮らしの中に
東京芸術大学・美術学部・工芸科を卒業 大学院で漆芸を専攻しました
父のもとで技術を深め、日本伝統工芸展を中心に作品を発表してきました
平成20年蒔絵の技法で国の重要無形文化財保持者(人間国宝)に認定されました
室瀬さんは伝統技術に現代感覚を取り込んだ、創作活動の傍ら、文化財の修復や古い技法の研究にも精力的に取り組んでいます
漆は海外でジャパンと呼ばれたほど親しまれた時期がありました
その漆が日常の生活から遠くなっている現状を憂いて、なんとか日本文化再生の糸口にしたいと考えています
蒔絵の手法 漆の分野は漆の樹液を使って表現するが、塗りが基本 顔料に膠を練って絵を描く
油絵ですと顔料に油を練って、絵を描く  蒔絵の場合は金の塊をやすりでおろした金の粉を取る
その粉を使って絵にする 漆と練るのではなく、漆だけで最初絵を描く
その漆が固まらないうちにやすりでおろした、金や銀の粉を蒔きつけて、漆の接着力を使って、同時に固めてこれを絵にする
金粉も大きさも20段階も30段階もある  形も球体のものから扁平なものまでいろんな形 純金、18金だったり、

金の純度によっても違うし、組み合わせは無制限にある
細かい金粉を使うんだったら仕上がった塗面に、蒔絵をしてそのまんま定着して磨けば、もう仕上がる 平蒔絵
荒い金粉を蒔くときは、触ると取れちゃうので、そのまま蒔絵をした後にもう一回全体を漆で塗りこめる
模様は沈むが、それを研いで出して、そうすると金粉の高いところが研ぐことによって金の色が出てくる 研ぎだし蒔絵
触って、取れない蒔絵方法を古代の昔の人が考えて、1000年以上続いてきてる

父親がやっていたので、子供のころから、日常生活の中に漆器がある生活をしていた
漆は綺麗なんだけど使いずらい、とか大事だからもったいないとか言われるが、漆ほど綺麗で強いものは無い
家で使っているお椀は20年以上使っているがびくともしない
漆は水にも強く、油、火、酸、アルカリにも強い  
王水に漆を塗った金属片をつけたらびくともしない
腐るという事がないので発掘された中で最も古い 9000年前の漆器が腐らずに出てきた
考古学の方は漆を使うなんてと、概念がない(漆など使うはずはないという)

次から次に見つかって、三内丸山古墳で 6000年以上前という 縄文前期までさかのぼって、とうとう北海道の垣の島B古墳で出土した物を調べたら9000年前
中国で一番古いのが7000~7500年前と言われるが、それより前に日本で古いものが出てきてしまった
お墓の発掘から出てきた でかがり?  びかがり? とかの装飾品に繊維を編んで、それに赤い漆を塗って装飾に使って装飾したまま埋葬された
 それで腐らずに出てくる
それを調べたら9000年前の地層だった
漆を精製して顔料と練って、それを細工した物に丁寧に塗って、3回ぐらい漆を塗ったものが報告されている
専門家の仕事が縄文期の草創期に生まれている 
ある意味では日本の文化史としては重要なレベルがあった
漆は偶然の産物ではない
  
漆は、もともと油性のもの 水にはとけないものでありながら、樹液と言う水にも混ざる
樹液であるが故に、油性でありながら、水にも馴染む 科学的にも不思議だなと思うぐらい特殊な液
普通油の中に水があると、分離しやすい  漆は分離しない
水分をゆっくり抜くことにより、ゆっくりと固まる
漆の固まり方は複雑で塗料と言うと乾くとつい言ってしまうが、漆は水分で固まってゆく 重合 鎖状に固まり方をする
水分がないと硬化が起こらない
それも塗料とすると特殊な塗料 ふつうは水分が抜けて乾く(塗料の乾き方)
水分をもらいながら固まってゆく 特殊な性質を持った液です
漆の液自体が、幹に傷がつくと、自分の身を守るために、空気中の水分をもらって固まってかさぶたのようにして身を守る

塗料として使うにはゆっくり固まってほしいので、水分を抜く かき混ぜながら蒸発させる
漆の樹液そのものは水分が30%ぐらい入っているが、それを3%ぐらいまで減らして、固まる反応を遅らせる
それが漆の精製と言うが、かき混ぜながら水分を飛ばす 
そうすると数十分で固まるのが、放っておいてもなかなか固まらなくなる
固まらなくては困るので、今度はその分、外から水分を与えてやる 
それが漆風呂 戸棚の中に噴霧器で板に湿しを与えておくと、戸棚の中が80%ぐらいの湿度になる
その中に漆を塗ったものを置くと、水分をもらって固まる
人間が考えた知恵 よく昔の人が考えたと思う
そこに顔料を入れたりすると 赤 煤を入れると黒  とできたりする
ジャパン=漆と言われた時代があった

漆の技術をどんどん発達させた 蒔絵は日本独自の技術である(平安、鎌倉)
フライシスコ、ザビエルが日本に来てキリスト教を伝えて、鉄砲、カステラ、ワイン等を伝えた
その時に日本から出て行ったものは、知られていないが、彼らが来て一番驚いたのが蒔絵技法
ヨーロッパには無い 漆自体がモンスーン気候にしか生えない
漆の塗料がない 黒い漆に金で蒔絵をした美しい漆器具に感動した
宣教師が帰るときに京都で相当注文して持って帰った  ヨーロッパで一大ブームになる
江戸時代に鎖国 オランダを中心にヨーロッパ文化が入ってくるが、そうなった時でも日本の漆器はどんどんそこから
注文されて出て行って、ヨーロッパでは物凄く高価なものとして扱われて、その時に漆は「ジャパン」と呼ばれるようになった
(18世紀から19世紀にかけて) 漆は日本の代表とした扱われた

今では漆はラッカーと呼ばれるようになってしまった ラッカーとは全然違うが
漆が合成樹脂のものに変わって、漆なのか合成塗料なのか分からなくなってきてしまってきてる
本当に感性は手のひらに有って、触感で漆の質感は忘れられない さらっとしてしっとりして日本人の皮膚にぴったりする質感
是非感じ取ってほしい 
工程数が物ずごく多い  又材料も少しずつ少しずつ集めるので高い
何十年でも使えるので総合的にはやすくなると思うが
木は熱伝導率が低いので 漆の木の器は温かい味噌汁、ご飯が 温かいままで食べられる
漆を作る人、蒔絵の筆、支えてくださる方も食べていけなくなると少なくなってしまう
私たちがいくら頑張っても作れなくなる 

家庭に一つ漆器を取り込んでくれるとその人たちが助かる
漆のお椀でご飯を食べる事は少ないと思うが、 陶器、磁器はお茶碗と呼ぶ 

お茶を飲む器、陶器、磁器は熱を外に伝えやすい 熱い熱湯を入れて、さーっとお茶の葉っぱを入れて、かき混ぜてすぐに飲みごろに冷めてくれたほうがおいしくいただける
(だから陶器、磁器は適した素材)

ご飯は、ゆっくりいただくもの 早く冷める容器に入れたのでは最後のほうは冷たくなってしまう
ところが漆塗りの木のお椀だと最後まで温かくおいしくいただける(日本人の知恵だった)
ご飯茶わんと言っているが(不思議な名称となっている) 飯椀と言って 木へんのお椀を使う
素材が違う 日本の食文化が高かった  器だけが置いてきぼりになってしまった(食材等は気を使ったが)

見えないところに手をかけるのが日本文化であると思うので、もう一度思い出してもらいたい
日本の工芸の文化 自分の思うがまま主張してゆく、美術の世界と違って相手の気持ちも考えて
そこにまた美を作ってゆく 美だけではない、相手も喜ぶ、生活のなかで使える
こういう中に美を求めるのが、日本の美術の世界で、これが漆というものに置き換えれただけで
幅が広い(生活用品から美術品まで)
漆の素晴らしさを理解していただきたいと思っている
室町時代に作ったものはその時代の最先端の技術、デザインで作っている
自分が死んでも自分が作ったものは、直して愛情を持ってつなげてほしいなあと思ったら
前の人が作ったものは直してあげなさいと言うような教育受けて、一つ作ったら一つ直すというような想いで両方やりなさいと言われて、文化財の修復を始めた

直すプロセスの中で、昔の人が考えた技術が壊れたところから、たくさん見えてくる
傷んだところから見えない工程が見えてくる 各時代の人は創作活動をしていたんだなというが
手に取るようにわかった(物が先生  先生がいっぱいる)
是がまた創作活動に加わってくる やりたいことがまた沢山増えてゆく
古いものが素晴らしいと言って古いものばかり、を真似してもそれは今に取り入れられなくて
今の人がどう好んでいるのか、新しい使い方の提案、こういうものもまだ歴史から学んだものを
展開してゆきたい
世界に発信してゆきたいと思う漆は金属にも塗れる いろんなものが使えるようになると思う  強さ、美しさを兼ね備えた塗料なので