2013年4月25日木曜日

沢木耕太郎(ノンフィクション作家)    ・ぼくが追い続けてきたもの

沢木耕太郎(ノンフィクション作家)   ・ぼくが追い続けてきたもの
大学卒業後、間もなくフーリーランスのライターとして執筆を始め、「若き実力者たち」「敗れざる者たち」などの作品で注目され、1979年、「テロルの決算」で大宅荘一ノンフィクション賞 1982年には「一瞬の夏」で新田次郎文学賞を受賞、2005年にはフィクションとノンフィクションの垣根を越えたといわれる作品「凍」で登山の極限状態を描きました

著書「キャパの十字架」について  
戦場カメラマンのロバート・キャパの出世作 「崩れ落ちる兵士」を巡ってのドキュメント
旅を追っているような、推理小説のような 感じのもの
スペイン戦争で取られた作品 (写真) この写真があまりにも見事な写真(兵士が倒れかかる写真)  1936年に撮影  キャパは40歳ぐらいで亡くなっている

山登りで高い山に登った時には、当人が登ったというならば、それを信じようという事になっている   戦場で撮った写真も同様に思われてきた  
しかし本当にそうなのかを調べた所、疑わしいと思われる事があった  私も信じていた
ロバート・キャパの伝記が出版された その人を私は知らなかったので、興味を持った
「ちょっとピンぼけ」 を読んでキャパは私に似ているなと思った
(ある種のいい加減さ 自然に溶け込む姿)

20代の初めに若くして世の中に出て行った 私も22歳のときに、物書きとして世の中に出て行ってしまった  ノンフィクションを書く  
取材をして書くわけだけど、観る人間であって行為をする人間ではないわけです
キャパもいろんな現場に行って(戦場の都市、難民とか)写真を撮るのですが、行って見るだけ、撮るだけ何もできない、何もしてあげられない という悲しみがロバート・キャパにもあったみたいで
ほんのちょっとだけ、「ちょっとピンぼけ」の中に文章が出てくる
私はそれに反応したんだと思う(思いが心に奥底に残っていた)
キャパの伝記を翻訳することになる(物凄く大変だった)

ノンフィクションを書くときに、話を聞いたり、調べたりすることで、ノンフィクションが成立するが、この本の翻訳もノンフィクションだと思うと思った 判らないところは教えてもらおうと思った(永井順小田島雄志・東大教授、ドウス昌代・作家(ご主人がピーター・ドウス スフォード大学の教授))
3人にいろいろ教えてもらいながら、翻訳を進める(それでもいろいろ苦労しながらであった)
ノンフィクションを書く作業、取材作業そのもの、のような感じだった
もう一冊 キャパの決定版の写真集が出来たので、それも翻訳してほしいとの依頼があった
翻訳はそれほど問題ではなったが、今まで何にも不思議にも思わなかったが「崩れ落ちる兵士」
の写真を見たら、「あれっ」と私も思うようになった(これは本当に撃たれたのかなと疑問を感じた)伝記に、「崩れ落ちる兵士」の2枚の写真が掲載された雑誌のページを載せている

それを見ると倒れてゆくプロセスみたいに見えるが、違う人 一枚でも難しいのに、しかも同じ場所
おかしいと誰でも思う (しかし証明はできない  蔭口では流布されていた)
ウイラー(キャパの伝記作者)はおかしいけれども、いいんじゃないかと、私の言い方で逃げた
私は納得しなかった 翻訳は完成して、世の中に出た
「崩れ落ちる兵士」の写真については心残りになった
キャパの写真を撮った場所に行って同じアングルで撮ってみたいと思った
キャパの事に対して雑誌に連載するという話があり「崩れ落ちる兵士」の現場に行ってみようと、行くことになったが、途中でいろんなことが判り始めて、連載しようとしていた雑誌にはこのことは入れられないと思った ( 確かめてゆくと壁に当たったりして、ちょっと後退、又かんがえなおすと先に行っていたり)

本当のことを突き詰めるのは、本質的に彼を傷つけるとは思っていなくて、むしろ本当のことをあきらかにすることを望んでいるのではないかと思っている
彼はもういいんじゃないかと思っているかも知れない
ロバート・キャパは1903年生まれ 生誕100年(生きていれば森繁さんと同じ)
「キャパの十字架」 でほぼ証明されたと思う さらに「崩れ落ちる兵士」の写真を撮った場所は違っていて、そこから50km離れたエステホという村だとの事(スペインの大学教授が突き止めた)
確かに山の稜線がぴったりと合った   キャパの撮った写真をクリアファイルに入れて、エステホ村を何時間も歩いて、あるときに写真を見て、キャパが撮った写真ではないのではないのかと思うようになった

あの写真は撃たれていない、だから死んでもいない もしかしたらキャパではなくて彼ではなく彼と一緒にいた恋人(ゲルダ・タロー)が撮ったものではないか、かなりその確率は高いだろうと思う
(恋人は半年後になくなる) キャパは沈黙するようになったのでは
その時22歳のときで23歳のときには最初フランスの雑誌に載り、アメリカのライフという雑誌に載って有名になった  金のない無名のカメラマン  たまたま滑った所の写真でそれは恋人が撮った写真だとはいえるだろうか、そうとは思えない
(自分の手を離れて有名になって、なかなか言えなかったのでは  黙るという道を選ぶ)
NHKスペシャルでCGで崩れ落ちる兵士の状況を再現してもらった
ちょっと違った事もあり、どちらがただしいのか今後もっと検証してみたいとも、思っている