2013年11月19日火曜日

六車 由実(デーサービス・管理者)   ・介護現場で見つけた新たな民俗学

六車 由実(43歳)  介護現場で見つけた新たな民俗学
静岡県沼津市のデーサービスの施設管理者として毎日お年寄りの世話をしています
5年前まで、東北芸術工科大学の准教授として、民俗学の研究に携わっていました
民俗学は各地に伝わる伝統行事や風習を丹念に調査してどんな背景のもとで、それらが誕生したのか、人々のどんな思いや願いが込められているのか、現代生活にそれらがどのように受け継がれて来ているのか、等を探る学問です
鏡餅をお供えしたあと、其れを御汁粉や雑煮にして食べる鏡開きの風習、そこには神様への供えものを一緒に頂く事で霊力を身につけて、一年間の健康を祈る意味が込められています
六車さんはそういった各地に残る神々への供え物にスポットを当てた本を世に出してサントリー学芸賞を受賞するなど民族学者として将来を嘱望されていました
ところが六車さんはアカデミズムの世界を飛び出して、介護現場に身を投じて、現在介護民俗学という新しいフィールドを開発して検証しています
その活動を纏めた新書がこの秋、日本医学ジャーナリスト協会賞大賞を受賞しました
何故、大学を飛び出して介護現場に身を投じたのか、民族学者としてそこに何を見いだしたのか
伺いました

民家を借りて改良して利用した施設 広さ16畳 ここが中心の部屋  一日の定員が10名
要支援介護度1~5まで 幅広い 年齢層 60~102歳までの方がいる
認知症、車椅子、心臓疾患とかいろいろ    9時から4時過ぎまで  
スタッフはぜんぶで6人と看護師1人  管理者、兼介護職員、兼生活相談員  なんでも屋
やっと1年になる 去年の11月1日から
お年寄りと一緒に何かをするのが難しいので、疑似家族みたいな場所になっている
午前中はお風呂が中心、並行して身体を動かしたりして、食事をして、午後は体操したり、おしゃべりをしたりして、4時に帰られる
行事は思い出に通じる物をやりたいと思っている
一人ひとりの想いをくみ取るために、普段の話の中からヒントを得てやっている
七夕 灯篭流しが有って、其れに合わせて灯篭に皆さんの亡くなった方の名前を書いてもらった
沢山の死を経験しながら、その思いをくみ取れないかなあと思って、灯篭に名前を書いてもらった

あるおばあさんは主人の葬式には出ていなかった 
(ショートステーにいた  亡くなったことも知らせていなかった)
嫁さんも参加したが おばあさんがあんた書きなと云った
嫁さんが戒名を書いたら、其戒名の中に名前が入っていて、亡くなったことを知っていたことが判った     
関係性が深まる
昼食後 ご馳走様を言う時に 「上手かった(馬勝った)、牛負けた」 と言われた
うちでも使っていたよとか、言いあった  これが大いにはやった

大学で研究する事自体は、面白いが、とても過密なスケジュールで動かなくてはいけないし、研究論文を1年間に何本しているとか、数に成果で、評価されてゆくような状況
なるべく食い下がっていたが、段々虚しくなってきて、受賞後外部からの評価が高まった
とても忙しくなって、自分で研究する時間が無くなってきて、学生とのかかわりも取れなくなって、体調もちょっと崩したのもあったので、止めることを決断する
沼津の実家で静養して、失業保険がもらえないので、フィールドワークは続けたいとは思っていた
お年寄りの恩返しができればいいなあと思って講習を受けたのがきっかけになった
実際に働いて見ると沢山の昔の話をしてくださって、言葉が豊か、表現が豊か、記憶も確か

介護施設ができるのではないかと思った
かなりのお年寄りがいて、民俗学研究に取っても面白いと思った
今までテーマを決めてやっていたが、テーマに関係ない話もあったが、できるだけテーマにそって話を聞く様にしていた
テーマを指定しないで聞いていると、自分では考えていなかったような、内容、生き方があって、逆に教えてもらう事が多かった
現代の漂泊民 家を持たずに、定住しないで、転々として生きている人たち
芸人、宗教者、とか  高度経済成長期の漂流民
電線を張る職業の人 →10人ぐらいの人と、家族と一緒に集団で移動していた
子供たちのそこの学校に通う事を10年以上していた  
そういったことを考えたこともなかった
80歳代の人 椎葉村に行ったことがあると話してくれた
介護される人は基本的な情報、は少ないが話を聞いているといろんなことが沢山合って吃驚した

蚕の鑑別嬢  養蚕については研究が進んでいるが、交配させないといけないので、良い種を作るために、鑑別するが、これまでに全く聞いたっことがなかった
片倉工業に所属して、村に派遣されて何日間かお邪魔をして、集中的に鑑別していた
戦後昭和30年代まで  今では仕事そのものも忘れられて行った
一つ一つの話が新鮮で、どっかに書きとめて置かないといけないと思った
「聞き書き」 常にボールペンとメモ用紙をポケットに入れている
最初の大きな介護施設では、話を聞いていてひんしゅくを買ってしまった
現在のところでは、聞くと相手ももっと話に乗ってくるようになった
立春にいなり寿司を作った 近所に配って、お駄賃を頂いたが、其れが楽しみだった
一番必要なのは、驚く事、興味を持って聞くと面白いし、相手も話に乗ってくる

戦前に口ずさんでいた歌をおばあさんが突然歌い出してて吃驚 回りも知らない歌だった 
「蛙の夜回り」の歌