2013年12月18日水曜日

稲垣篤子(菓子屋社長)      ・羊かんと共に60年

稲垣篤子(菓子屋社長)    羊かんと共に60年
1坪の小さな店ですが、この店で作る羊羹を求めて、毎朝開店前から長い行列ができます。
この羊羹を60年間作り続けているのが、稲垣篤子さん81歳です。
最高の味にこだわり、丹精込めて作る羊羹にどんな秘密が隠されているのでしょうか。
機械化が進みマニュアル的なもの作りが世の中にたくさんありますが、稲垣さんは、日々の気温や湿度、季節の移り変わり、材料の小豆の状態に依って、小豆の煮方、火加減、練りの強さ、時間など毎日変えているんだそうです。
60年間羊羹人一筋の人生を歩んで来た稲垣さんの羊羹へ込める思いはどんなものか伺います。

現在7時、開店前だがすでに40,50人の人が並んでいます。  一番先頭は4時50分に並ぶ。
幻の羊羹と言われている。(並んでも買えない場合がある)
40年ぐらい前から行列ができるようになった。  1」日に150本作っている。
小豆を3升以上炊いたら昔ながらの羊羹はできないといわれていて、3升を炊いたら50本になります。(1回)
それを1日に3回が限度になり、150本になる。 一人3本までなので50人が限度と成る。
私も食べたいときには並びます。(知り合いにも並んでもらう)
沢山作ることをすると目が届かないし、粗製乱造になる。
675円 値段を高くすることもしないことを貫いている。
先代が戦争でいろいろ体験してきて、私達も子供ながらにいろんな体験をしてきて、食べられれば私たちの生活は十分なので、お客さんにすこしでもいいものを値段を押さえて商売をする様にとの先代の教えなので、守っています。

小豆を前の晩に洗う→朝早くから炊く(3升 1時間30分程度)→潰して皮と中味を分ける
→さらす、絞ったものを練る (砂糖と寒天を溶かして沸騰させたものに容れる)→
最初さらさらしていて、煮詰まってきて粘り気が出る→白っぽい紫が澄んだ美しい紫になる
→手の感触、見た目、匂い、湯気の立ち上がりなどで判断してあげる。
練りも天気の温度、湿度などを肌で感じて、眼で見て、それで行うので毎日が微妙に違うと思う。
練りかげんで音が違う。 ナベ底は見えるが半紙一枚を残すような感じで、底を見ながら練る
美しい紫、火加減との兼ね合い  一瞬一瞬違う。
なるべく均等にナベ底に火が当たるように鍋を回りながら、注意深く行う。
銅鍋、熱伝導が一番早い、炭火で行う。

マニュアルに書いてある行間が大事だと思う。 
経験と勘で作り上げるのがいいと思う。
本当においしい食べ物は眼と指先の感じ、を集中して掴まなければ出来ないと思う。
父に作り方は教えてもらった。  厳しかった。
説明ではなくて、自分でやっているものをみて、食べて、こうだという。
核心をつーんと突いてくる。 
結果がどうだとは言わないので、自分でこうだったのかとか、いろいろ毎日考えた。

店を母に任せて父は満州に事業を起こした。 (小学校の1,2年の頃)
昭和19年に九州に疎開する。  
自然が豊かで面白かった。
弁当に地元の子は米を持ってきて、私は代用食(サツマイモ、かぼちゃとか)だったので
なぜ、何故違うのと疑問は涌いた。
美味しいものを食べたいとの思いはその時から湧いてきていた。
父が帰国して、和菓子屋を再開する。 作るものを絞って、だんご(串に二つ)、もなかの二つ
だんごにはあんこを付けて中に桜の花の塩付けを入れる。
それがよく売れた。

露店でやっていた。(夜には分解する) 
これが生活する事、生きることだと身を持って教えてもらった。
3年後に今の店が手に入る。 
従業員も雇えるようになったので、自分の事をやりたいと写真の大学に行きたいと父に言った。  プロの写真家になりたかった。
大学での宿題があり、砂川闘争の写真を撮った。  土門拳がその場にいた。
長女なので、親の姿を見て、手伝わなければいけないと思い、結局引っ張り込まれたような気がした。
販売だけではだめで、製造から知っていないとできないと思い、男の職人の世界にはいり、女でも負けてはいけないと思った。
父からは褒められたことはなかった。 
何が足りない、何が足りないといつも言われた。

羊羹のタイプは4つある。
①ぷりぷりするきんぎょくかんのような羊羹
②ぽくぽくする芋ようかんの様な羊羹
③するっとはいる水羊羹のような羊羹
④ねちっとするような羊羹
それを結んだ対角線の中心を家の羊羹にすると父から言われた。
そんなことは言われても判らなかった。
小豆の風味を羊羹に出す。
甥が3人入ってくれて、下の代に伝えていかなければいけない。
教えても噛み合わない部分があり、今の人はデジタルにものを考える。
先代から教えてもらったのは、書いてないもの、行間なることを伝えていかないといけないと気付いた。
大きくしないで今のままでいいから深くものを考えて、羊羹を作るように、人間もそういう風になってもらいたいと思っている。
今以上に皆さんに喜んで召し上がっていただく様に一層注意して作っていきたいと思います。