2015年9月27日日曜日

小川さゆり(山岳ガイド)      ・御嶽山噴火 その時私は

小川さゆり(山岳ガイド)       ・御嶽山噴火 その時私は
死者行方不明者63人、戦後最悪の火山災害となった御嶽山の噴火から1年になります。
去年のこの日、お客さんをガイドする下見として一人で御嶽山に登っていました。
山頂に到着した直後山が噴火し、岩の下にあった穴に身体の半分をかくし、砕け散った噴石が当たったものの辛うじて生還する事が出来ました。
小川さんが生き延びたポイントは何か、山にかける人生に噴火はどの様な影響をもたらしたのか伺いました。

ガイドの仕事、100%は安全ではない山にどうやってお客さんを安全に連れて行けるか、リスク管理、万が一何か起きてしまった時にどれだけ早く対処できるか、という事です。
山で亡くなる人を見たのと、友達が雪崩に巻き込まれて亡くなりました、その時に山岳ガイドと一緒に行っていたんですが、ガイドになりたいなと思いました。
日本山岳ガイド協会の認定ガイドになっています。
私は雪山、岩の登坂はガイドとして行けません、夏山の縦装をメインにやっています。
中央アルプスがメインです。(木曽駒ケ岳、空木岳、恵那山 は有名  標高3000m弱)
ガイドだけで70日ぐらい、プライベートで120日ぐらいは行っています。

噴火当日、御嶽山に登っている。
一週間後にお客さんをガイドするので下見に行って、頂上に11時30分に着きました。
特に8合目あたりの紅葉が綺麗でした。
土曜日、天候もよく普段より頂上にいる人は多かったです。
お鉢めぐり(旧噴火口の周り)に向かおうとしていた時、背後からドーンという音がして振り向き見上げると噴煙が上がっていて、空一面に黒い粒が見えていて噴火だと思いましたが、噴火するとは全く思っていませんでした。
吃驚して、石が降ってくる前に隠れようと思いました。
登山道のわきにあった岩に張り付き身を縮めました。
視界を遮る濃いガスにまかれて、卵の腐った強烈な臭いがするガス(硫化水素)で息ができなくなりました。
息を吸うと余計苦しくなったが、喉を押さえてのたうちまわっている様な状況で、窒息して死ぬんだなという事を意識しました。

冷たい風が急に入ってきて、気がついたら普通に息ができるようになり、頭をあげると一瞬青空も見えて、視界もありました。
ガスのにおいはしていましたが、きつくはなかったので、一の池という急斜面があるので30mぐらい走って降りて、岩の下に小さな穴があったので頭を入れて背中までは入ったが、腰、右足は入れませんでした。
又ドーンという大きな音がして自分の手が見えないほどまっ暗闇になって、噴石が降ってきました。
たまに薄っすら見えるような状況でした。
噴石の砕けたものが右足にバンバンあたっていました。
家に帰ってみると右足の外側は真黒になっていましたが、特に怪我は問題なかったです。
その時はこれで終わりかなと、恐怖でしたが、噴火が終わってくれることを祈るだけでした。
主人にもう一回会いたいなあと思いました。
噴火から噴火が終わって逃げる瞬間まで1時間有ったと思います。(噴火は3回 爆発音はずーっとしていました)

噴火は3回目が一番大きくて新しい火口ができてその場所から350mぐらいのところにいた。
最初バスケットボールぐらいの大きさの岩で電子レンジ、洗濯機、一番大きいのは軽トラックぐらいの岩が降ってきた。(50分ぐらい続く)
何とか生きて帰りたいと思ったが、軽トラックぐらいの岩を見た時にはなるしかないなと思いました。
あっという間に視界が広がり、全貌が見えるが、黒一色でした。
3mm程度の火山礫で覆われていて50cm以上は積もっていて、さらさらと新雪のような感じでした。
4人の登山者に会うが、3人の男性は負傷は無く女性が脛に骨折をしていた。
全身が隠れる岩を探したが無くて、最短ルートで山小屋へ飛び込みました。
小屋の人に怪我をしている人の救助要請して、そして下山を開始しました。
噴煙をみた時に直ぐに危険と判断してどれだけ早く命を守る行動に移れたのか、それから最後に運だと思いますが、行動する事で運を引き寄せたと私は思っています。
剣が峰の連続写真があるが、1分ぐらい視界があり、どこよりも生きる可能性があったのが剣が峰だったんですが、一番多く亡くなったのが剣が峰でした。
60秒の判断、をどのようにするのか、瞬時に判断して逃げた人は助かっています。

普段から自分で考えて判断する事を常に意識していないとだめだと思います。
意識しないと自分のものにならないので、意識しないと駄目ですね。
「自分の身を自分で守る」、あたりまえの言葉ですが非常事態の時にどれほどの人がその行動に移れるのか、どれほど常に意識しているのか、ということだと思います。
ヘルメット被る、シェルターを作るとかの動きがありますが、物で解決するほど自然は甘くないのではないかと思います。
山の危険というものに対して本当に真剣に考えるようになりました、今までも考えていたつもりですが、本当につもりだったと思いました。
自分の身を自分で守るということを、お客さんに言っていますが、言葉は重くなったと思います。
山は生きていると言う想いはなかったのですが、噴火の時に山は自らの意思があるのかなあと感じました。
山は怖いところだと思います、条件が悪ければ人の命を簡単に奪ってゆく場所ですが、こちらの向き合い方を真剣に考えればそう怖い場所ではないのかなあと感じます。
ガイド登山でも自分で考えて判断して行動できる自立した、絶対生きて帰ってくるという登山者になってほしいと思います。