2015年12月3日木曜日

的場輝佳(関西福祉科学大学教授) ・科学からみるダシの世界

的場輝佳(関西福祉科学大学教授) ・科学からみるダシの世界
1942年生まれ  京都大学で農芸化学を学びましたが、食べものの世界に興味を抱き、料理の作り方を科学的に解明する事を研究テーマとしてきました。
その中で特に日本料理、和食の素晴らしさ、それを支えるダシの存在に注目してきました。 
わたしたちが当たり前と思っている料理の仕方、昆布やシイタケなどから成分を抽出し、そのダシを利用して調理するという料理法は世界的に珍しい日本特有のものだと言います。
食文化が大きく変わろうとしている、今伝統的な和食文化を見直してほしいと言います。
調理科学の視点から食文化を研究する的場さんに、和食に欠かせないダシの特性や魅力、ダシを使った料理法の背景、現代人の食生活への提言などをお話ししていただきます。

「ダシを引く」(ダシを取る) 京都の老舗料理人さんがよくしゃべる言葉です。
素材を活かすことから引くと言っているようにも感じます。
40歳過ぎに奈良女子大学に移って家政学部、食べ物に関する事をするところに行って何か新しいものをやろうとして、料理のサイエンスがあまり分かっていなくてこれは面白そうだと思って、調理の世界の謎解きをしてみようと思ったのが、きっかけです。
味には①甘味 ②塩から味 ③酸味 ④苦味 ⑤旨味(日本人が発見)
ダシ 日本料理の世界にのめり込んでしまいました。
ダシは日本のものだと思います。
昆布、カツオ、にぼし、しいたけ、かんぴょう等からお湯で美味しさ、風味を抽出してそれに野菜等和食というものを作る下地のベースになるもの。
海外ではたん、ブイヨンとかスープに相当するものがダシです。
下味を付けておいしくするのが、下味を付けるものがダシです、日本料理が伝統的に作っているお惣菜、煮物などを作る時の基本になっている味です。

旨味の基本になっているのが主に①グルタミン酸(昆布)、②イノシン酸(カツオ、にぼし)、 
グアニル酸(しいたけ)がベースになっている。
①グルタミン酸はアミノ酸の一種 アミノ酸がつながって出来たのがタンパク質 身体の中で一番多くあるのがグルタミンサン
②イノシン酸③グアニル酸は核酸 DNA RNA が途中で切れて細切れになったのがイノシン酸、グアニル酸
遺伝子のもとになるものがベースになったのが不思議な事に旨味成分なんです。
トマト、チーズなどにはグルタミン酸が入っており、ゆっくり味わって旨味を感じながら食べるとダシの旨味を感じるんです。
ダシの味として特化して感じた調理法をしているのが和食です、フランス料理、イタリア料理等はダシを引いて料理は作らない。
(スープの中には旨味成分は入って入るが)

日本のダシは乾燥したものがベースになっていて、雑味がない、ダシを取ると臭みのないシンプルな旨味という味をベースにしたダシができます。
野菜等の食材の持ち味を壊さないで味付けができます。
ヨーロッパで煮込んで作ったダシは臭みがあり脂っこくて、そこに食べものの特徴を出そうとすると、スパイス、ハーブやバターなどを使って総合的な濃厚な味にしてしまう。
日本は縦に長く、70%が山で、海に囲まれていて、米があり、四季がありそういう環境下では、肉は少なく、ご飯を中心になり、仏教の関係で肉はあまり食べてはいなくて、そういったものが日本の食環境を作っていって、シンプルでさっぱりした素材を活かしたものが好まれる。
ダシもそれに適応してきている。
水もふんだんに有り、癖のない軟水の水で美味しいので、そういったものを含めてでき上ってきた。
ヨーロッパは硬水なので癖があり、水に打ち勝たないといけないので、濃厚でスパイスをきかしたものを作ったのかもしれない。
ヨーロッパの料理人さんは水にはこだわらない。


世界遺産になった。 和食 日本人の伝統的な食文化
①多様で新鮮な食材と、その食材の持ち味を活かした料理
②健康的で栄養バランスが良い
③料理の中に自然の美しさや季節の移ろいを表現している
④行事と食生活が密接な関係をしている
昔はダシをひいていたが、最近は便利になり、電子レンジができて、調理に手が抜けてきてしまって来ている。
料理をだれかが作って、皆で頂いてお話をして家族でコミュニケーションを取る、心が病んでいる人にその人の美味しいものを作ってあげて心が和らぐ、とか人の為に作ることを通して、何か豊かになれる。
子供たちが家庭の中で子供達の食生活、一人で食べる、スナックですませてを食べるとかそういう事が大変心配です。
家族と一緒に作った料理を同じテーブルで食べるという習慣が無くなってきた。
1日の反省とかの会話とか、偏食を正したり、そういったものが無くなって、切れたり、家庭内暴力とか、子供の心がすさんでいる事もあると思う。

平成18年食育基本法ができて、今こそ食の豊かな生活ができるようにした方がいいと思う。
京都に若い料理人さんがいて、先生との付き合いとの中で、和食離れをしている事が判り、相談して教育委員会との話し合いのなかで、日本料理に学ぶ食育カリキュラムを料理人さんが授業を始めました。
命を頂いている、おもてなしの心
ダシの作り方等を料理人さんがやると子供達は感動する、10年間ボランティアでやっている。
子供に教えるよりも家族の人に教えた方がいいにではないかとの意見もあるが、親に教えると言うと出てくる人と出てこない人がいて、本当に聞いてほしい人は出てこないので、子供全員に教えると、その感動を親に伝えそれを継続してゆけば、それが近道だと料理人さんは言います。

日本の和食の歴史を見ると、日本のオリジナルではなく海外から来たもので、日本人の感性で日本風に仕上げてきたもので、これからも変わらないと思うので、和食自身の持っているものはダシだと思うので、ダシは食材の持つ持ち味を活かすという魅力、それをどう楽しむかということは大事だと思うので、継続してゆく事を探っていきたいと思います。
香りの要素もあると思うので、味と香りが一体になったものがわたしは味と考えていますので香りをもっと意識した生活によって違ってくると思います。
洋食と和食の違い、食材、ダシの違いもあるが、日本的な香りというもの、香りの違いが決定的に違いを表していると思います。
ハーブ、バターの香り スパイスの香りが和食の中になじんでいないが、これからどういう風になじんでゆくのか気になっています。
料理人さんに聞くと、合わないから使わないと言っているが、でも美味しければ使うと言っているが、すごく興味はあります。

食料自給率は40%きっているが、欧米含めて日本だけ。
ここ数10年で日本は自給率は低くなってきてしまっている。(ヨーロッパなどは上がってきている)
海外から食料を買って生きてゆける時代はそんなに長くないと思います。
日本の食生活は危機になると思います。
自給率が下がって農村漁村の野菜、魚が取れなくなると和食の崩壊になる。
健康維持には野菜を多く取りなさいと有るが、達成されてはいないが、野菜をおいしく食べるのにはダシが絶対必要で、それに依って達成されると思う。