2016年6月10日金曜日

丹治富美子(詩人・エッセイスト)  ・森に暮らし、古典をひもとく

丹治富美子(詩人・エッセイスト)  ・森に暮らし、古典をひもとく
埼玉県浦和市出身 浅間山の山麓の中で20数年暮らしています。
この森で花を愛で鳥と遊び自然と共生しながら詩を書きオペラの脚本を創作しています。
平成13年群馬県の国民文化祭で発表されたオペラ「みづち」はこの環境の中で製作されました。
自然との共生を歌う「みづち」は新国立劇場でも再演されて高い評価を得ました。
一方で丹治さんは源氏物語、枕草子など 古典の研究者として知られ、五感、視覚、嗅覚、聴覚など匂い、色、味、動物の鳴き声などから、源氏物語を読み解く研究者です。
丹治さんは東京農業大学で源氏物語、枕草子など古典を語り、当時の自然や生き方などを若い世代に伝えています。

冬は鳥たちが寄り添う様に近づいてきますが、夏になると森に戻って行きます。
以前は鬱蒼としていました。
私は自然は少しも怖くない、人に自分の誇りを穢されたり傷つけられたりする方が恐ろしいことですと言って過ごしてきましたが、ここ2,3年はあっという間に開発されて、住宅地と変わらないほどになってしまいました。
敷地一杯にある木を切ってしまって、雀、カラスなどが住むようになって、どんどん生態系の様子が変わってきてます。
人類はこれまで自然を征服する、それが人類の性と思いますが、森を征服しつくしてしまうと、虫や動物などが住めなくなる。
そうするとやがて人類もそうなると思っています。
文明とは一体どこまで突き進むのだろうと、思い始めて、その想いをオペラ「みづち」に書いてみました。
みづち 架空の動物で み=水 づ=古語では「の」にあたる ち=精霊 水の精霊の事を歌いあげた。

時代を1000年昔にして、3000年の未来へこの自然の大切さをつたえるという、メッセージを持ったオペラに書き上げました。
群馬県は東京都に水を供給しているところで、水は生命を持っているものは必ず水なしでは生きていけないのでテーマに選びました。
日照りで苦しむ村の様子、押黒族というのは自分のところだけに雨を降らそうと、みづちを捉えた。
みづちを助け出さないと、この世に雨が降らないという事で主人公がみづちを探す旅に出かける。
自分が生かされている、人間が生きてゆく事、自然の大切さ、生命、人を思う心を旅をしながら理解してゆく。
美しい地球を守るために主人公の小太郎は、自分の身近なことに大切にすればいいことに気付く。
美しい故郷を守ってゆけばやがて地球全体に広がってゆく事に気付く。
上演時間は2時間。
群馬県の国民文化祭で発表され、新国立劇場でも再演された。
愛を訴えるオペラは多いが、自然を正面から訴えるオペラは珍しいとの評価が大きい。
森に住んで、文明の在り方に気付けたオペラだと思っています。

源氏物語は様々な分野、様々なことを膨大に含まれた物語なので、テーマを決めて分析すると面白いと思いました。
人間は五感を持っているので、それで切り開いていけば面白いと思って、その様な読み方をしてきました。
源氏物語を読もうとして35年掛かりました。
嗅覚が面白いと思いました。
この部屋に夏の香りの荷葉(かよう)(蓮)という練香を薫きしめています。
甘葛(あまずら)の蜜と香木を何千杵と叩いてタドンの粉とで作るが、ブレンドの仕方がある。
源氏は自分のブレンドの仕方があってそれを衣服に薫き染めると、それは源氏の君だと判るようにした。
自分の香りが相手に移ってしまう、移り香がある。
香りは心を穏やかにする香りと、気持ちを高ぶらせる作用がある。

紫の上は、源氏が新しく結婚したところにいかなくては行けなくて、耐えて耐えて源氏の衣服に紫の上は香を薫き染めてゆくが、他の女性も同じように夫に香を薫き染めてゆくが、その女性は理性の糸がぷっつりと切れて、思い切り後ろ姿に投げつけ、夫は灰まみれになる、という状況があり、同じ香りの場面だが、紫の上はじっと耐える女性で、もう一方は自分の感情を押さえきれなという事が描かれている。
源氏物語の教室を開いて、軽井沢は25年以上、浦和は18年になります。
美しく老いましょうという事を目標にしています。
毎年20種類ぐらい草々を乾燥して、薬草茶をつくっています。
私は病気をしたことがありません。

東京農業大学の学部長が、我が校は文化芸術の面が足りないので補ってほしいと頼まれて、古典の話をさせてもらっています。
学生たちは、人間として生きいきと生きている、1000年も前の人達の事を改めて感じることに興味が湧く様です。
人生において、心に響く一言が話せたらといつも思っています。
私の文明はもうこれまででいいという事で森の中に入りました。
いろいろな事を見聞きし、星の美しさ、月の美しさ発見する事などが様々にあります。
森の中で暮らしていると動物の方から近づいてきます、かけがえのないことだと思います。
私の作品がすさまじい加速を続ける文明にふっと立ち止まって頂けるシグナルであればいいなと思って過ごしています。