2016年11月9日水曜日

佐藤隆之(ドキュメンタリー映画監督)・再び映画作りに挑む

佐藤隆之(タクシードライバー・ドキュメンタリー映画監督) ・再び映画作りに挑む
佐藤さんは1961年山形県生まれ、関西育ち、現在55歳。
高校時代 文化祭で 8mm映画を作ったことがきっかけで、映画作りに目覚め、大阪芸術大学映像計画学科に進み、大学中退後に上京、フリーの助監督として大林 宣彦さん、堤 幸彦さん、廣木 隆一さんが監督する映画の製作に参加、主に劇映画、フィクションの世界で活躍して来ました。
しかし、自らが監督になって安定した収入を得られるのは、ごく一部の人だけという厳しい映画の世界、佐藤さんも何よりも好きだった映画製作に自信を喪失、父親が亡くなり、借金を抱える事にもなり、45歳の時に映画の業界から姿を消しました。
その後まともな生活をと、タクシードライバーとなった佐藤さんでしたが、2年経った頃どうしても映画を作りたくなったと言います。
タクシードライバーの仕事をしながら、初めての長編ドキュメンタリー映画を完成させました。
企画、監督、撮影、編集全てを一人でこなし、5年かけて作り上げた映画はアイヌの歌を受け継ぐ姉妹の物語、「カピウとアパッポ」 アイヌの姉妹の物語です。
文化庁の映画製作の支援事業、文化芸術振興費の助成も受け、今月から全国各地で公開予定です。

映画は持ちだしばっかりで仕事と言えないが、自分のやるべきこととしては仕事だと思ってやっています。
タクシードライバーも人間のショーケースと言いますか、苦労もしますけど面白いです。
「カピウとアパッポ」 アイヌの姉妹の物語
北海道阿寒湖生まれの二人のアイヌの姉妹を追いかけたドキュメンタリー映画、カピウとアパッポは姉妹のニックネーム。
カピウはカモメ アパッポは一般的に花のこと 福寿草を言います。
姉は東京に15年ぐらい住んでいて、妹は阿寒湖にずーっと住んでいる。
東日本大震災をきっかけにして、姉が子供を連れて避難してくる。
4歳と6歳の時にアイヌの民族衣装を着て歌って踊りもする映像から始まる。(母親が撮っていた)
いまは二人とも結婚してそれぞれ3人の子供がいる母親で30代。
私は間近で聞いた時に歌に魅かれ、鳥肌が立つような感じがした。
二人、それぞれ歌を歌っていた。

二人の生活の裏側、かっこ悪い所も撮ると言う事をつたえたが、どんなふうに撮られるか判らないと言う事だったが、邪魔にならない様にして、二人のありのままの姿を撮りました。
心に響く歌がどうして出てくるのか、元の方を生活から描きたいと思いました。
撮影は絶対失敗できないと言う事で、凄く緊張しました。
歌は伝統的なものとは違う所に行っていると思いますが、ある意味凄いなあと先輩(お爺さん、お婆さん達)のひとたちは思っていたと思います。
お酒が入って二人が相当な口喧嘩する時があるが、翌日素直になって心を語り合うところがあるが、姉が妹に自分の素直な心で好きな歌を歌えばいいと慰める所があるが、その言葉が凄く綺麗だと思ったりするのが印象に残っていて、これは使わなくてはいけないなと思いました。
アイヌのことを知らない人にも伝わる不思議な魅力があり、それがどこから出てくるのかという事が、それを知りたいと思ったのが、これを作る動機でもあったわけです。

インドに行った後、大学を中退する。
それまでの価値観がガラガラと崩れて、それから色んな見方をする様になった。
他の世界を知りたいと思う様になり、京都で助監督の見習いみたいなところから始めて、東京に行った方がいいと勧められて、東京に来て、監督の下で働きました。
大林 宣彦さん、堤 幸彦さん、廣木 隆一さんが監督する映画の製作に参加しました。
監督として続けていく事が凄く大変で、監督となってから10年ぐらいやってきましたが、仕事自体が段々小さくなってきて、業界からドロップアウトしました。(45歳)
鬱状態になってしまって、父が病気で亡くなり、タクシードライバーを始めました。
業界からは自然に忘れられました。
タクシードライバーの仕事の中で色んなドラマが沢山ありました。
現実の些細な事の中にドラマがある、それも一つのドラマと思ってそっちに惹かれました。
長編ドキュメンタリーが完成したのが55歳、10年。
自分がやりたいことがたまたま映画だったが、自分がやりたいことは諦めない、ちょっとずつでもいいから、続けてゆく事は大事だなあと今になって思います。

自分がやってきたことの責任、そういうものも感じます。
出来上ったものを出演した人、協力して貰った人にお見せして、それでホッとしました。
5~6年はこの映画のことだけをやってきたので、5~6年生きてきたそのものです。
社会的なテーマもあるし、個人の魅力を描いている映画でもある。
歌の根源、どうして歌うのか、何故歌わざるを得ないのか、そういう事に迫れたのかなあと思います。