2017年1月6日金曜日

磯貝 明(東京大学大学院教授)  ・コツコツ研究“夢の新素材”

磯貝 明(東京大学大学院教授)  ・コツコツ研究“夢の新素材”
木材から生まれた新素材とはセルロースナノファイバー CNFと言います。
木材の繊維を極限までほぐして髪の毛のおよそ 1/2万の太さにしたもので、現物は繊維の姿をしたものではなく、透明でゼリー状になっています。
この新素材を10年前磯貝さんと共同研究者が開発し、おととし森林産業のノーベル賞といわれるマルクスヴァレンベリ賞を受賞し、世界的に知られるようになりました。
セルロースナノファイバーは強さや軽さで炭素繊維に匹敵し、多様な分野に活躍できる万能素材といわれ、自動車、化粧品,ガラス等様々なメーカーが実用化研究を急いでいます。
実用化されると、豊かな森林をもつ我が国は資源国になる可能性が有り地球温暖化対策にも役立つと期待されています。

マルクスヴァレンベリ賞を受賞し、年末にはホンダ賞も受賞。
マルクスヴァレンベリ賞 スエーデン国王が自ら授与される。
アジア圏ではまだ誰も受賞していなくて、意味や価値は余り知られていない。
2015年9月28日の授賞式で取材を機に、一部の新聞、TVに取りあげられてからいろいろ声を掛けてもらえるようになりました。
講演を依頼されたりする事がおおくなりました。
ホンダ賞は環境、資源の観点から次の人類に期待される技術、研究内容について評価されると言う事で、評価されたと思います。
20年前までは森林資源を使うことは環境破壊に繋がると考える方が多かったと思いますが、むしろ逆で、唯一大気中の二酸化炭素を吸ってくれるのは植物で、木が大きくなる段階で二酸化炭素を吸って自分の身体にしている。
大気中の二酸化炭素濃度を減らして地球温暖化に貢献するには
①二酸化炭素を出さないようにすること、
②二酸化炭素を吸わせてあげて、森の生産物である物を蓄積することが地球温暖化防止につながる。

成長した木を燃やさずに材料として、先端材料として蓄積する。
植林さえきちっとすれば、二酸化炭素を吸うと云う、二酸化炭素削減のサイクルをうまくできる可能性が有る。
人口減少、紙媒体を使わない、という事で住宅、家具、紙が使われなくなってきて、木を切らないし植林もしない。
成長した木がそのままでは二酸化炭素を吸わない状況になるので、それを切って新しい材料に使えば新たに植林して、二酸化炭素を吸う新しいサイクルができる可能性が有ります。
セルロースナノファイバー 木材の繊維を極限までほぐして髪の毛のおよそ 1/2万の太さにしたもので、セルロース分子が6×6の36本で出来た細い鉄筋の様なもので自分を支えていて、どの植物も同じサイズの最少単位で、それに出来るだけ近づいて行ったのが、セルロースナノファイバーで、一番細いのが3ナノm幅で、紙に使われる繊維が0.02~0.04mmですが、それを1/1万にしたレベルです。
植物が自分自身を支えているのは①セルロース、②ヘミセルロース、③リグニン
②、③は地域によって構造大きさが違うが①はどこへ行っても同じだと言う事が不思議です。

稲藁、農産廃棄物のサトウキビの絞りカス、竹、広葉樹、針葉樹でも同じナノセルロースを作る事が出来る。(身の周りにふんだんにある)
セルロースナノファイバー 透明なゼリー状。
研究には①課題解決型(青色発行ダイオードIPS細胞等) ②偶然発見型(夢追い型)、2種類ある。
炭素繊維、カーボンナノチューブ、光触媒などは日本で発見された②のタイプ
セルロースナノファイバーも②のタイプです。
炭素繊維は発見が1961年なので50年経ってようやく飛行機に使われるようになりました。
②は時間のかかる可能性が有りますが、セルロースナノファイバーを何とか早く実用化していこうと言う状況にはなってきました。
化石資源に頼らない循環型社会基盤に貢献できるようにと期待しています。

針葉樹の繊維は3mmと長いので強い紙材料に使われる。(紙パック、ダンボール等)
ちょっとした化学処理をすると繊維の形は変わらないで、色が白くなります。
1996年から化学処理の研究を始めて論文発表が2006年。
色が白くなったものを水に入れてミキサーで撹拌すると透明になった。(ナノレベルまでなる)
その発見が2006年だった。(斉藤先生が発見)
何に使ったらいいか全くわからなかった。
ナノレベルまでするには電力がかかるのに対して、化学処理を組み合わせると、電力が1/100以下に低減出来ました。
木材から生まれた新素材です。

応用については工学関係の先生、企業の方々に紹介して検討していただくことが新素材の質、量の拡大になるのではないかと思っています。
多くの方の研究者の力を借りてこの素材を広げていきたいと思っています。
①包装材、②化粧品、③ガラス、④自動車など様々な可能性が有ります。
①透明、②酸素を殆ど通さない、③熱安定性が有る(のびちじみが少ない)④増粘剤(化粧品がべとべとしない 簡単に液体の様に吹きつけられる) 自動車のタイヤ (カーボンブラックを入れるので黒いタイヤだが色の付いたタイヤができる可能性が有る。)
企業が数千社、他に多くの研究機関が新しい利用の研究を検討しています。
消臭おむつの研究もされていて、介護者の負担軽減のために消臭機能のある大人用おもつも注目されています。
インク切れのしないボールペン、ダマになってインクが出ない物がダマにならないものが実用化されています。

世界的課題、二酸化炭素削減、温暖化防止、循環型社会基盤の構築、化石燃料に頼らない社会を作ることに貢献できる素材かもしれないと言う事で基礎研究を一生懸命やっていて、応用展開を研究している所にサポートしている状況です。
若いころは数学、物理が得意だったが、周りに秀才がいたし、化学、生物学は量をこなせば、何か新しい発見が有るのではないかと思って、化学の方に行こうと思いました。
成績で或る程度振り分けられて、農学部に入って、化学はやりたいと思っていました。
水系でセルロースを高付加価値のものができないかと思っていたところに、セルロースを触媒反応でセルロースの化学構造を変化させる研究に出会いました。
でんぷんでの反応をオランダでやっていて、それをセルロースに適用しようと始めたのが1996年でした。
2002年に、齋藤継之さん 4年生が修士課程で研究が面白くなってナノセルロースにつながる研究を始めてくれました。
制限しない形が結果的にはよかったと思います。
多くの方の意見に耳を傾けてネットワークを広げて行く事が、特にセルロースナノファイバーはこういう事が必須だと思います。
セルロースナノファイバー はまだ生まれたばかりなので、未知のことがいっぱいあるので、基礎研究の基盤を整えていこうと思っています。
セルロースナノファイバーは筋のよさそうなものであると言う事が言われていて、世界の研究者も注目して追試などもしてくれています。