2017年6月29日木曜日

稲田信二(野菜生産会社代表)   ・植物工場の挑戦

稲田信二(野菜生産会社代表)・植物工場の挑戦
京都住まい、57歳、野菜を扱う青果卸売会社でのサラリーマン生活の後、植物工場を設立しました。
人口増加や、異常気象に依る農作物被害などで従来の気候や風土に適した生産だけでは食料を安定的に確保することが難しくなるのではないか、では今何をすべきなのか、稲田さんはこうした食料問題に、植物工場が答えることが出来ると考え事業展開しています。
植物工場は光、温度、栄養素など植物に必要な環境を高度に制御できる室内生産システムです、
天候の影響を受けずに生産できるので安定供給が可能になり、持続可能な食糧生産システムとして期待されています。
稲田さんの植物工場は2016年、世界的に優れた革新的な農業技術に対して贈られるエジソン賞金賞を受けて居ます。

レタス出荷が中心、1日に約2万1000株を生産して首都圏関西地域に納品しています。
サラリーマンから2001年に野菜の流通事業を立ちあげて、そこから事業を多角化して、2006年に生産事業である株式会社を設立しました。
生産の状況を見てみたいと思い、農家の人に話を聞いてみたら、将来に向けての展望が描けない、後継者の問題、儲からない、自身が高齢というようなことで、日本の野菜を支えて居るのは高齢者中心で、今後の日本の食糧生産に危機感を感じました。
農業は天候に左右される事業なので、そこを何とか技術革新で出来るものはないかということで探していたが、植物工場に出会ったことがきっかけです。

周りに相談したが、投資額が大きくてリスクが高いとみんな反対しました。
中長期的な視野で見るとやっておくべきだと思って、挑戦していきました。
今では周りからやってよかったなあと言われます。
初期投資が大きいと云うことで、事業を軌道に乗せることが難しいといわれています。
販売面がなかなか難しい、需要のバランスとタイミングの問題で採算が合わないと云うのが約7割が抱えている問題です。
最初は苦労しました、亀岡プラント(2007年に竣工)でレタスを大規模に生産するが、小規模の生産条件とは全ての条件が変わってきていて、確立するのに3年近くかかりました。
光、人工的な光で栽培するが、光環境を整える、均質な光を作る。
空気の流れ、温室度、呼吸するのに影響されるので温度と湿度のバランス、二酸化炭素の濃度、風の流れのスピードなどが、手探りで行ってきて、条件を作り上げて来ました。
生産物流販売全て苦労がありました、特に販売は人工的につくられるものなので、最初は抵抗があったのではないかと思いましたが、安定的な生産、品質の物と言うことで認知に時間がかかりました。

露地野菜が高くなった時に、工場のレタスに人気が集まりファンが増えていったと思います。
東日本大震災の時に安全性を求めるお客さんが増えて、農薬を使わずに栽培すると云うことで需要が一気に伸びました。
スタートして6年ぐらいは、夜も寝られないとか休みもなかなか取れないとかありましたが、段々課題をクリアしていったところ取引先も増えていって、黒字化することが可能ではないかと5年ぐらいから可能性が見えてきて、6年目には黒字化しました。
①栽培技術をしっかり確立すること、②デリバリー、鮮度の高いうちにお客さんに届ける事、③販売、この三つの要素が整って初めて植物工場が回って行くと思います。
高齢化して行って農業全体の生産力が低下して行く中で、既存農業と補完しながら安定生産できる仕組みは必要だと思っています。
グローバルな観点で見ると人口も増えるし、食糧供給も課題になっていると思います。
地球環境も変化しているので農産物に関しても影響が出てきていると思うので、気候変動によって持続可能な体制にしてゆくことは難しいということもあり、植物工場は外部の影響は受けにくいので役割は果たせるのではないかと思います。

この事業は農業とIT技術を組み合わせて、技術を高めると云う事が大きな役割であり、必要になって来ると思い居ます。
IOT、ビックデータ、ロボット化といった技術を農業に取り入れて農業の大規模化、自動化が促進されていくのではないかと考えています。
今後、30年50年考えると次世代に持続可能な社会を引き継いで行く使命があると思うので、そういったことを残してゆくために新しい技術を開発して次世代にバトンタッチしていきたいと思います。
昨年、世界各国から問い合わせがあり、300件近く色々な国から問い合わせがありました。
北米、ヨーロッパ、中東などに行って、現地の農業の現状、課題、植物工場事業がその地域にとってどう必要なのか、どういった商品が求められるのか、工場を建てるときの課題とかお話ししました。

気候変動、高齢化、人口問題など何処の地域でも課題があり、それに対して良い解決法がまだなかった。
植物工場の提案は非常に新しくて、最初は何処の地域でも抵抗感がありウエルカムではなかった。
しかし事業の仕組み、必要性、環境に配慮した農業であるとか説明すると、理解していただいて興味を持っていただけるようになりました。
テクノファームを建設中で、12月頃の完成を予定しています。
生産能力は1日3万株のレタスを生産する工場で、栽培の工程を自動化(苗作り、植え替え、収穫までの工程の自動化)し、安定生産できる。
専用のLEDを開発して、従来の30%以上のエネルギー消費量を削減、もっと厳密に温度管理もできるようにもなりました。
トータルとしては製造原価をかなり下げることが可能になり、品質もあげられ価格も安く提供できることが実現します。
水のリサイクルも実現しています。(世界で水の少ない地域でも活躍できる可能性がある)

この技術を世界中に広めていきたい。
野菜全般に広げて行きたいが、葉物を中心とした栽培方法が最適なのでホウレンソウ、ミズナ等を含めて広げていきたいと思っています。
政府への働きかけで、植物工場の標準化、基準作り、海外への発信とか積極的に取り組んでいきたいと思います。
日本の農業の活性化と云う意味では植物工場の役割は重要だと思っています。
収益を上げていかないといけないし、若い人が興味を持っていただける事業にしていかないといけないと思います。
最後まであきらめない、少しの可能性を信じて、やり遂げたいと思って現在も挑戦し続けて居ます。
潜在的なものが本質的な課題であったりするので、我々が置かれている課題をもっともっと顕在化させてそこに挑戦する、今後の事業展開のひとつの魅力であるのではないかと思います。(ただ儲かればいいとか、はやりだと云うことでやるのではなく)