2017年12月18日月曜日

元井秀治(鋳物メーカー社長)       ・【にっぽんの音】能楽師狂言方 大藏基誠

元井秀治(鋳物メーカー社長)       ・【にっぽんの音】
能楽師狂言方 大藏基誠

12月の風物詩の音、「ゴーン」大晦日に鳴り響く除夜の鐘、梵鐘を作っている、元井さん。
富山県の高岡市は鋳物の街で400年ぐらい鋳物を生産している街です。
江戸時代は鍋釜など生活必需品を作っていた。
鋳物は鋳型に溶けた金属を流して作る製品の事を全部鋳物と言います。
うちは200年位になり、江戸中期から末期の頃の創業になります。
お寺の鐘を作っているのは日本で現在5社ぐらいです。
西本願寺、成田山新勝寺、広島の平和の鐘などを作っています。
仏教伝来以来、鐘も伝わって来たようで、一番古い鐘は京都の妙心寺の鐘に700年代の後半の年号が入っています。
梵鐘の「梵」は限りなく清浄と云う意味で、梵鐘は限りなく清浄な音を出す器ということになったんだと思います。

昭和17年金属召集令と言うものが出て、日本中の梵鐘が拠出されました。
出兵兵士の様に釣鐘にたすきをかけて、鐘の前に御膳を置いて水杯でおくったという、お国のために送って戦艦の部品などになったと聞いています。
飛鳥時代から順々に作って来た鐘が第二次世界大戦でほとんど消えてしまうと言う不幸な歴史があります。
鐘は銅と錫の合金で錫は15%位です。
戦争が終わってから梵鐘の大生産時代に入りますが、うちが一番作らせていただきました。
日本中の二つに一つがうちの作ったものと思います。
形や、音色でうちのものかどうかわかります。
兵庫県のお寺に収めたものが一番大きくて、高さ5、5m、直径3.3m、重さが50トン、これを二つ作りました。
ふたつ作るのに3~4年かかりました。
金属の湯を流し込むのは10分足らずです。
型を作ってから終わってから仕上げるまでの時間が長くかかります。
今年作ったのは30個弱です。
ここ数年で海外からは数本です。
普通の鐘で日本の高級車から会社の一台分ぐらいの価格と言ってもらえればいいと思います。(鐘もピンキリがあり車のピンキリと同じ)

一番上のフック、龍頭と言いましが、ぼつぼつは乳と言ったりしますが、仏様の螺髪(らほつ)を模したものだと言われます。
縦と横に筋がはいっていますが、お釈迦様の袈裟からきてると言われます。
突くところを突き座と言いますが、天国で咲いていると言う蓮の模様をしています。
一番下の処を草の間と言いますが、龍の模様か、宝相華(ほうそうげ)、これも天国で咲いていると言う草の模様です。(唐草文様の一種。唐草に、架空の5弁花の植物を組み合わせた空想的な花文。)
釣鐘に出ている模様は全部この世にはなくて、あの世のものがあらわされています。
池の間 と云う所に時々天人模様を入れますが、あの世で筝曲を鳴らす人達と言う人達であの世の者です。
現在ガス炉でクレーンとかは使ってはいますが、それ以外の工程はおそらく1300年ぐらい変わっていないです。

鐘の音の聞き比べ
*東大寺の鐘の音、堂々とした感じ、大きな鐘なので重低音。
*京都知恩院の鐘の音 16人の僧侶が除夜の鐘を鳴らす。 
 アインシュタインが日本に来た時に、鐘を突くのを見て「鐘のまん中に音の聞こえなくなる場所があるでしょう」といって、真ん中に入ると全く音の聞こえなくなる場所1ポイントあり、皆は吃驚したと言う話があります。(物理学者なので見聞きしただけで分かったと言う)
鐘は鳴らすと震えていないように感じるが、湾曲しているのでほとんど真ん中に音の聞こえなくなる場所がある。
どの鐘にもあります。
鐘を突いて鐘の周りをゆっくり回ると、鐘を突いた方向と90度方向に強い音が出ていて、45度方向は音が消えるとまではいかないが、大きな音は出ていないです。
そのことが鐘を湾曲させながら楕円運動させているので、真ん中に音の聞こえなくなる場所が出てくる訳です。
*池上本門寺の鐘の音、余韻がながい感じがする。戦後にうちで作った鐘の音でしみじみいい音だと思います。

形状の設計、肉厚のバランス、砂の吟味、合金の成分をどうするか、鋳込みの温度(非常に重要)、枯らし(何もしないで放っておく期間)の期間、場所が音に関係するがそれも重要、突く木の材質、重さも音に重要な要素となる。
場所、山の鐘は重く、平地の鐘は軽くという格言もあります。
低音の方が遠くに聞こえるので、平地は家などの遮蔽物があるので大きくする、山寺の鐘は山が反射板になってくれるので小さくてもいい。
高さ1.8m、重さ11トンの高岡の平和の鐘をうちで作った時は、どのくらい音が飛んでいくかの実験をしたが、最大7kmのところまで聞こえた。
「鐘の音」と言う狂言があるが、建長寺の鐘の音が良かったと言う話。
*建長寺の鐘の音 特徴は細長い、すっきりした鐘の音。(突き座がちょっと上にある)
*狂言での鐘の音を声で発する。能楽師狂言方 大藏基誠
鐘の音は段々長い余韻と、重低音が好まれる傾向にある。

昔から「良い鐘は一里鳴って、一里響いて一里渡る」と言われている。(12km)
釣鐘は音圧が100dB前後で、50~160Hzの周波数 2km位しか音は飛ばない。
渡る、は気配だけが伝わって行く、日本人しかわからない感性だと思うが。
渡る気配が12km先まで判ったと言うことでいい鐘は3里と言われる所以と思う。
広島の平和の鐘、あれは世界で一番悲痛なセレモニーと思っていますが、それと同じ様な音を出してくれと言うことで、東日本大震災の後に釜石市の皆さんが来て鐘を作りたいと言うことで、釜石の駅前に釜石復興の鐘と言う鐘が鳴っていますが、広島の平和の鐘とほぼ同じ音を出すように工夫して作ったが、釜石市の皆さんの思いがこもっていて、誰でも鐘を突くことが出来ます、この音も好きですが思いもこもっています。
長い余韻と程よい唸りを求めて作っていますが、日本の風土、宗教観、無常観、わびさびとか色んなものが入っている音、皆さんに除夜の鐘の音を聞いてもらいたいと思います。
「花の雲鐘は上野か浅草か」 桜が爛漫になって鐘の音がある、何処の鐘だろう。芭蕉の句
川越の「時の鐘」も有名。

祈りの対象になるものなので、一つ一つ丁寧に作る、音を聞いて涙を流す人もいて、それを見ることで又我々も感動して感謝の循環の場が生まれるわけです、有難い仕事だと思っています。
若い人たちにもずーっと続けて行って欲しいと思っています。
20歳代2人、中核の人は40歳代です。
梵鐘の数もだんだん減っていくと思うので、鎮魂、哀悼、慰霊、平和の鐘と言うものを社是として一つ一つ丁寧に作っていきたいと思います。