2018年1月9日火曜日

馬渕清資(北里大学 名誉教授)      ・“バナナですべる”を科学する

馬渕清資(北里大学 名誉教授)      ・“バナナですべる”を科学する
1950年昭和25年愛知県名古屋市生まれ、東京工業大学で機械工学を学んだ馬渕さんは大学院で当時わが国ではほとんど進んでいなかった人工関節の研究を恩師の勧めで始めました。
北里大学に移って医療と工学を結びつける医療工学の教授となり、人工関節が体内でうまく動くための研究や実用化に取り組んできました。
その専門書を出版するにあたって人の関節が滑る仕組みを説明するところでバナナの皮がよく滑るようにと説明したが、後になってその通説には科学的な裏付けがない事を知り、自分で研究することになりました。
その研究結果は予想以上の反響を呼んで、4年前、イグノーベル賞を受賞しました。
イグノーベル賞と言うのは「人を笑わせ考えさせる」と言う研究に贈られるものです。

滑る話したらすぐ調べてみようと言うことになってきました、滑ると言うことは摩擦が低いという現象で、歳を取るとページがめくれにくくなると言う話を聞き、指の摩擦を測ってみようと言うことで指の滑り具合を調べました。
年齢と滑り具合の関係を調べてみました。
歳をとれば一様に滑ってしまう。(ページがめくれなくなる)
肌湿度計で測ると、歳をとると段々肌が乾燥してきて、滑る。
対策としては湿らせるのが一番簡単です。
座敷犬も滑るので、靴下をはかせて対処するが、犬の滑るのはどのぐらいか測ってみました。
換毛期の5月頃に自分の毛が抜けて散らばっていると1/5位に下がってしまう。

歩けるかどうかが、医療技術では一番重要で、膝関節、股関節の二つが人工関節の90%以上を占めている。
これが滑らないと、立っている摩擦で大きな力がかかっていると言うことを意味してしまいまして、人工関節本体を損傷させてしまう。
折れてしまうこともあるが、微視的にすり減って行く厄介な状態が起きる。
摩耗して出来た粉末(金属、プラスチックなど)が身体の中にまき散らされて、それが障害を発生させることが起きてきている。
それを防ぐには潤滑技術を駆使しないといけないので、そのための研究をずーっとやってきました。
材料は純度の高いポリエチレン、相手は金属とかセラミックスというような組み合わせで作ります。
材料を選ぶときに身体に影響がないように、基本的な実験からスタートします。(50年の歴史がある)
最長は45年と言う人工関節がありますが、一般的には20年が限界と言われている。
日本では年間14万例の人工関節の症例がある。(高齢化社会と関係していて増える一方)

医療機器関連の産業は我が国の他の技術と比べるとまだ低レベルで、多くを海外からの輸入に依存していて人工関節も9割が海外製品です。
人工関節が発達するころに医療機器は海外から買う、自動車、電気製品は売ると言うような貿易バランスが確立されてしまった。
海外の人工関節が入って来て、患者さんに入れる技術はデザインの外側の形と同じ形で骨に穴を作らないといけない。
骨に穴を作る為の道具が多種類になって来て、一つのデザインの人工関節を入れるのに500万円位の挿入器具が必要となり、人工関節のデザインごとに必要になる。
20年たって初めて結果が出てくる技術はとてつもなく時間がかかるので、いいと言ってもなかなか採用すると言うことに動けない。

45年前に卒業論文でこの研究を始めたときに、ある論文を読んだ瞬間に関節の滑りとバナナの滑りは似ていると思いました。
30年前に書いた本で「似たような仕組みで」と書いたが、暫くして誰か滑りを調べている人がいないか調べたが誰もいなかった。
うかつに言った自分も困ると思った。
全くの専門外だったので、定年間近になってから、始めたのが10年前でした。
学生がいない時をねらって集中的にやっていました。
データがたくさん集まって来て、又他の果物などもやりました。
是非論文にしようと思って英語の論文にすれば、あの賞は貰えるだろうと思いました。
踏むと滑る、表面の状態が踏むことによって変わるのだろうと思って、踏む前と踏んだ後の状態を顕微鏡で見ると、踏む前はさらさらした結晶みたいな粒粒が、踏むとドロドロに液状化してしまう。
粘液になるから滑ると思いました。
10倍以上違います。

納豆、機械油、人間の関節を滑りやすくするものと同じなんだと言うふうに書いています。
粘液は関節の中にもヒアルロン酸を含む粘液がある、関節液と言うが共通点がある。
粘性とはなんだと調べてみたら、それを作る能力があるのは生物だけなんです。
高分子(分子の長さが長い)を水の中に入れると流れを阻害します、それが粘性です。
科学技術では高分子をいきなり作る事は出来ない。
油は元は生命ですから。
全て有機物が絡んでいる。
そこまで考えていなかったが面白いと思いました。(生命の本質ではないかと思いました)
纏めた論文を2012年に発表して、翌年は何の連絡も来ませんでした。
2014年に声がかかって、候補になったとのメールをいただき、受賞となりました。

「Think and laugh」ですから、日本語で言うと一言「面白い」です。
英語では 面白い:interesting 愉快:funny
日本人の中では同じ。
面白いは感情ではなくて、心が躍った瞬間の心の動きを更にもう一人の自分が見ている、この状態は面白いと言っている。
心が躍るのは、既存の自分の頭の枠がありそこから跳ばないといけない。
科学技術が今の生活を支えているが、何をやってきたかと言うと一番進歩したのは200年間の産業革命、エネルギーと言うものを利用するようになってから一気に進歩した。
エネルギーは我々を肉体労働から解放させてくれた。
延長線としてより早く、より高く、より大きく、と言うことを手に入れてきたが、一生のうちの仕事をする期間が半分位です。
残りの期間40年どう過ごすかが問題になって来ている。

AIは労働、頭脳労働を助けてもらう為に持ってきたが、これからは頭脳労働が少なくて済む様になる。
AIに置き換わると究極の楽な世界、いいかどうかではなくていずれそうなって行く。
変化が急激過ぎて大変です。
AIを使うことが幸福かどうかは当てにならない、AI、エネルギーでもそれを使うことで幸福になれると言うことで前提にやってきたが、これが人間と言う生命にプラスを与えてくれたのかと言うとこれはよくわからない。
ただただ進歩発展ではなくて、今いる場所で維持継続という考え方、万人が満足する社会を目指さないとこれから迎える難題に立ち向かうのは難しいであろうと言うのが私の意見です。